単独行のこころ9

ある日の事、いつものごとくマイナーなルートを歩いていたのだが、想定していた以上の難路、片側が切れ落ちた細い登山道などが連続して出てくるので、神経をすり減らしながら歩く。

はじめて歩くルートは等高線からは見えてこないような難路が現れる事もあるので緊張する。

しばらく歩いていると、こんな場所には珍しく年配の方が2人食事をとっていた。

「こんにちはー」と挨拶する。

すると「ここはじめてなの?」と質問された、
「はい、初めてです!」応える僕。

「ここから先は難しいよ。一緒にくだってあげようか?」と言われる。

詳しく聞くと、これからの道は赤テープなどが巻かれてない上に落ち葉が積もっていて道がわかりにくい。よく道を間違って遭難する人が多いとの事。

なるほど、たしかにそうなんだろう。

というのは地図の等高線を見れば、ここで道迷いが発生しやすいというのはわかる。

等高線が収束しておらず、わかりやすい尾根の形が無い。
こういう場所は方向感覚がわかりにくいので迷う可能性がある。
その上赤テープも無く、落ち葉が積み重なって踏み跡が見えないとしたら・・

「そうですか、では一緒に降りましょう、よろしくお願いします」と返した。

単独行の僕としてはめずらしい事だと思う。

なにしろそのおじさんが、これから先は甘くない、道をよく知っている俺らについてくれば間違いない!と言うのだからそれに素直に従うのも良いと思ったのだ。

おじさんたちは食事をしていたので、僕はしばらく待っていた。
実はここに来るまで昼飯も食ってなかったので、どこかで食おうと思っていたのだが、それは無しになった。
仕方ないので、チョコをかじった。

すると、もうひとりのおじさんがやってきた。
そして聞いてもいないのに、自分らの事を語りだした。

おじさんは登山歴が30年を越えるらしいが、
もうひとりのおじさんは、なんと海外遠征も5回ほどした事もあるのだという。

そう言われれば、そんな雰囲気もする、登山家らしい堂々とした振る舞いである!!

海外遠征ってどこですか?と聞くとネパールの8000m峰だと言っていた。
ほー、すごいですね・・

私は自分は登山の世界ではどちらかと言えば底辺側の存在だろうと思う。
(もしも登山の世界にヒエラルキーの様なものがあるとしたら・・という意味で)
たぶん、ちゃんとした人(真面目に登山に取り組んでいる人)からしたら、私などは取るに足らない存在かもしれない。

「おまえなんだよ」「東京の山ばっかり登って楽しいのかよ?」とか言われても、
たぶん僕は「ごめんなさい・・」としか言えないだろう(笑笑)

そんな僕の前に現れた、海外遠征5回の真の登山家登場だ。

これはすごいぞ!!

おじさんたちは、食事がおわってさあ行きましょうか・・と言う。

すると、僕に先に歩けと言うのである。

後ろから見守ってくれるのだそうだ。

要するにここからの道はわかりにくいから、君先に歩いてみてごらん、間違ったら指摘してあげるから・・みたいな態度だ。

さて、下ってゆくのだが、

たしかに所々道がわかりにくく、ちょっと(ん?)と思うところはあったが、

思ったよりしっかりと踏み跡がついていて、めちゃくちゃ難しいと言う事もない。

さくさく下っていると、うしろから

「おーい・・・君は速すぎる、もっとゆっくり歩きなさい。もっと楽しみなさい」と注意された。

「あ、はい」

しかし、実際には僕はもともと歩くのはそんなに速くは無いのだ。

というのもカメラで写真をマメに撮影しながら、GPSアプリに僕が感じた地形の特徴などをプロットして歩くからだ、それが、後ろから、ベテラン風おっさんに見守れながら歩くので、写真を撮影してる場合じゃないし、歩くしかないのだから、ペースもあがってしまうってもんだ。

いや、俺そんなに速くは無いだろ?とは思ったが。

ゆっくりと歩くのがベテランってもんなのか?と思い、たまに後ろを見ては、止まったり、ペースを落として待つを繰り返した。

延々と下っているのだが、言われたような落ち葉で道がわからないような場所は無かった。

後ろからも

「あれぇ? 落ち葉すくないねぇ?」などと聞こえてくる。

僕はこころの中で

(落ち葉ないんかい!!)と関西風のツッコミを入れた。

しかし、なんだか後ろを歩いているベテラン風おっさんが微妙にマウンティングをとってきているのが気に入らない。

たしかに僕はへっぽこ登山者だが、それなりに奥多摩を歩いてきたという自負はあるので、もやもやとしていた。

と同時に

こういう上から目線の人って、なにか失敗しでかすもんなんだよな。
たとえば、すべって尻もちをつくとか・・

と、思っていたら、後ろを歩いていたおじさんが、すべって尻もちをついた。
僕は後ろを振り向かなかったが
心の中で(ククク・・・)と悪魔のように笑った。

だがなんと、それからまもなく、僕もすべって尻もちをついてしまった。
これは恥ずかしい・・笑笑笑

(くっそ、くっそww)と思いながら、何事も無かったかのように歩く鋼の精神の僕である。

しばらく歩いていると、後ろのおじさんが「ところで君のそのザックはなんだね?今度からちゃんとしたザックを買いなさいよ。」
とか言い出した。

僕が背負っているのは、三鷹のハイカーズデポで買った、ロングトレイルなどを楽しんでいる人が使っているアメリカ製のザックだったので、いちおうこれもちゃんとしたザックなんですよ、と答えたのだが

「それはちゃんとしたザックじゃない!ハイキング用だ!」と言われてしまった。

「はい、わかりました」とこたえるのが精一杯である。

(こんな所で反論してもしょうがないしね・・)

けっきょく終始難しい場所は無くて、そのまますんなり下山できてしまった。

下山した後、おじさんが、僕はこの山はホームマウンテンで今までに(30年の間に)1000回は登ってるね!

と言っていたが、

(それなら落ち葉がたくさんあるか、ないかぐらいわかるだろう・・)と思ったが、そこは武士の情けで何も言わなかった。

とりあえず下山できて、なぞのプレッシャーから開放された僕は、(やっぱ人と歩くのは疲れるし、面倒くせぇ〜笑)と再確認したのだが、それと同時に、人間って面白いなーとも思った。

単独行だと自然と自分との対話に終わるけど、人がいると、それぞれ癖があって、みんな凸凹していてドラマが産まれるんだな・・とも思った。

そこから林道を歩いて行った、そこで初めておじさんたちの服装や装備をじっくり見ることが出来たのだが、僕に散々装備のうんちくを語っていたおじさんも、ザックの外側にコップをぶら下げていたのが、なんだかユーモラスに思えたし(コップをぶら下げる事が悪いとは思わないけど、人に偉そうに言う人がそういう事をしていたので、ユーモアを感じてしまった)

それにもうひとりの海外遠征5回の人をじっくりと見ると、パンツがどう見てもジーンズなんだよね。(2度見した)

そしてザックを見ても、見たことないそれどこで買ったの?ダイソー?って感じの変なザック?だったので、

この人本当に海外遠征するような人なのかな???なんか怪しくね?と思ってしまった。

海外遠征5回のツワモノがジーンズは履かんだろう?(どう思う?)

いやベテランの余裕でジーンズなのか?(謎である)

経歴詐称してるんでは?とも思ったが・・・

その後、その2人のおじさんと別れるとき

おじさんが「また、どっかで会いましょう」と言ってくれた。

僕は会釈しながら

「いえけっこうです」と

心の中で答えた。



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